奥田元宋・小由女美術館【吉村芳生 超絶技巧を超えて】に行ってきました

こんにちは。うしです。

先日夫から、

広島県三次市にある奥田元宋・小由女美術館で開催されている「吉村芳生 超絶技巧を超えて」が、あんた好きそうやで。

という話を聞いて、ググったところ、すごすぎて動揺する予感がしたので行ってみました。

吉村芳生というひとについて

1950年、山口県防府市に生まれた吉村は山口芸術短期大学を卒業後、広告代理店勤務を経て1976年に上京、創形美術学校にて版画を学び在学中から公募展、国際展などに積極的に出品します。1985年からは現在の山口市徳地に居を移し、山口県美術展などを中心に出品を重ねます。2007年に開催された「六本木クロッシング2007:未来への脈動」(森美術館)への出品によって全国的に脚光を集めるようになりましたが、2013年に病により惜しまれつつ早逝。

作風

鉛筆を使ってひと文字ずつ描き写された新聞の一面や、一年間の自らの顔を描いた365枚の自画像、5ミリ四方のマスの中に描いた線による濃淡で描かれた絵をなど、途方もない時間と気の遠くなるような作業の集積によって、「超絶技巧」を超えた独自の作品を描き出した。

「吉村芳生 超絶技巧を超えて」で観ることができる作品

今回の回顧展では、初期のモノクロームによる「ドローイング写真」のシリーズや、代表的なシリーズとなる「新聞と自画像」の一連の作品、色鉛筆によって克明に描きこまれたコスモス畑やフジの花など、代表作を含むおよそ60件の作品を観ることができます。

出典―http://www.genso-sayume.jp/kikaku/yoshimura.pdf

以下は、すべてではないですが、観て思ったことを描いていきます。

ドローイングなど

「機械文明が人間から奪っていった感覚を再び自らの手に戻す作業」

を行うための手法として、そのドローイングは生れた。
17メートルの長い紙には、鉛筆で書かれた、金網。
1万8千個の金網が一つ一つが連なった、美しい、蜂の巣状の金網。
70日をかけて描かれたその金網は金具の匂いがしてくる。金網ってこんなにきれいでしたっけ。

シルクスクリーンのハエ「FLY」「SCENE NO.23」などのリトグラフ(版画の一種)、「A STREET SCENE NO.16」のエッチング(腐刻線による技法)は見る距離によって写真に見えたり、クロスステッチにみえたり、ただの立体的なふかふかした線の集合体にも見える。

さて、テレビの画面やパソコンの画面は拡大してみると、赤、緑、青の光の粒(ドット)の集まりです。光の3原色の組合せと明るさの調節によって、様々な色ができ、集まって、像として見えます。

吉村さんドローイング作品は、このドット部分を10段階の鉛筆の濃さ、斜線の数で表現したようなものです。
また、エッチングなども、目止め、腐蝕の繰り返しで10段階の濃淡を表現しているそうで、どちらにせよ、目も眩むような作業を重ねて、重ねて、重ねて一つの作品を作っています。

また、鉛筆、油性ペン、コンテ、インク、紙、フィルムなど様々な素材や技法で、様々な作品を描いていて、それらの材料によって、表現されるものの質感や温度が変わってくるように思います。

新聞

26歳から描き始めた新聞シリーズは

①インクの乾ききっていない紙面に薄いアルミ板を当て、プレス機で圧着。

②このアルミ板に紙を当てて、圧着。

③紙に転写されたごく薄いインクを頼りに鉛筆で文章や写真をそっくりそのまま移す。

という、もはや変態な作業をしています。
遠目でみたら、新聞です。

自画像

自画像の数が半端ない。全部で2000点以上描いてる。
中国新聞に毎日の自画像を描く「新聞と自画像 2009年」。新聞の内容で表情が変わっている。
それとは別のパネル146×109.1で描かれた「新聞と自画像」は新聞すら描いている。上の新聞シリーズが巨大化した上に、自画像を載せていくスタイル。

スナップ

友人と自分の写真を描いたもの。

作者曰く、

「友人たちの魂まで描きだしたかった」
「友人を描くことで、友達に囲まれた作者自身の自分の存在感確かめたかった」

もうね、この解説文読んだらね、大好きになりましたよ。吉村さんのことが。

異色の作品

「徳地・冬の幻影」1987年に描かれた、色鉛筆と紙で描かれたもので、だまし絵みたいな感じです。雪の積もる木の陰影にたくさんの顔や動物?などがいっぱい描かれています。
他の作品にはこういったものは見られないそうです。

1990年からは花を題材にした色鉛筆で描いた作品に重点を置くようになる。
いずれも、キャンパスサイズでかい。
見ごたえあります。
変わらず、四角い枡を描いて、そこに色や形をのせていく手法。色鉛筆で描いたようにはさっぱり見えませんよ。奇跡みたいです。

パンフレットのにも使われている「無数の輝く生命に捧ぐ」というタイトルの藤の花は、一つ一つの花が東日本大震災で亡くなられた、人の魂を思って描かれたそうで、それを知ってみると、「超絶技巧」で紙に慈愛や優しさを落とし込んだ、作者の心そのままを見ているような、そんな気にさせられました。

「未知なる世界からの視点」という川辺の作品は。川辺の草花を水面に映る姿と一緒に描いたものですが、逆さまにしてあります。
私はこの絵がすごく好みで、日常の世界のなかに異世界を見るような、そんな感じがしました。

絶筆となった作品「コスモス」には、絵の3分の2ぐらいのところの枡から先が空白になっており、まさに絶筆。四角い枡を描いて、そこに色や形をのせていく手法、その途中で終わっている。
得も言われぬ、感情が湧き起ってきました。

まだ、描ける。

まだ、描けるはずだった。

作品のほとんどが個人の所蔵なので、本当に観る機会が少ない作家の作品なのではないかなぁと思います。むしろ、この人の美術館を作ってほしいですけどね。

まとめ

変態です。

変態としか言いようがない。ひたむきなまなざしを作品から感じとれる。

その一枡へ、一線、一文字、一点を紙に落とす時に、
瞬きをしたんだろうか。息をしていたんだろうか。

観る者が息をのみ、心を動かす線や色の集合体。命の集合体。

作者が作品に注いだ命が確かに、そこには息づいていた。
貫き、走りぬいた画家の姿を絵を通してみることができます。

圧倒的な、技巧の中に、憂いと揺らぎが見え隠れし
それは、作者のものなのか、自分のものなのか分からないですが

作品の中にある【吉村芳生】の命が、語りかけてきます。
見る人それぞれの感情に語りかけてきます。

ぜひ、「吉村芳生」さんに会いに行ってみてください。

東京ステーションシティで行われた同回顧展の記事
写真も載っていて、分かりやすい。

【吉村芳生 超絶技巧を超えて】

会場
奥田元宋・小由女美術館(広島県、三次市)

会期
平成31年2月22日~4月7日※会期中の休館日 3月13日

開館時間
午前9時30分から午後5時

今後、京都と長野でも展示が行われる予定だそうです。

作品集がない

【展覧会図録】吉村芳生 超絶技巧を超えて

作品集などありません。上記の図録しかないようです。
展示会では発売していましたが、書店などでは取扱いないようでしたので、より作品に触れたい方は、展覧会でご購入されるのがよいと思います。


アート・トップ 2008年 09月号 [雑誌]